現代のマネージャーが直面する“4つの矛盾”とは?:「企業中心」から「人中心」に移行するマネジメントの現在地

現代のマネージャーが直面する“4つの矛盾”とは?:「企業中心」から「人中心」に移行するマネジメントの現在地

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2022.07.13/ 10min read

市場環境や労働環境の目まぐるしい変化に適応するために、マネジメントにも大きな変革が求められています。

特に、組織変革や事業多角化による「両利きの経営」を推進していくにあたり、ミドルマネージャーが果たす役割は大きいとされています。しかし、現代の組織におけるミドルマネジメントの最適解は、未だ導き出されていません。

新時代のミドルマネジメントに関する知見を体系化し、伝えるために何ができるのか。先日公開した「マネジメントの教科書を書き換える」に引き続き、本記事では、「現代組織におけるマネジメントの役割を捉え直す:マネージャーが向き合う4つの命題*が生む矛盾とは?」というテーマについて、株式会社MIMIGURI 代表取締役 Co-CEO・ミナベトモミが解説。マネジメントにおけるパラダイムシフトを紐解きつつ、現代のマネージャーが直面する困難さを生み出す構造について語ります。

「マネージャーの務めは、『4つの矛盾』を解きほぐすこと」とミナベ。現代の組織には、どのような「矛盾」が生じているのでしょうか。

*編注…「命題」という言葉について、「至上命題」など、「重要な課題」を意味する言葉として用いるのは本来的には誤用となりますが、本記事では講義の内容に基づき、その意味で「命題」という語を使用させていただきます。あらかじめご了承ください。

プロフィール:
ミナベトモミ(株式会社MIMIGURI 代表取締役 Co-CEO)
早稲田大学第一文学部 ロシア語ロシア文化専修卒。広告ディレクター&デザイナー、家電メーカーPM&GUIデザイナーを経て、デザインファーム株式会社DONGURIを創業。その後に株式会社ミミクリデザインと経営統合し、株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEOに就任。デザインキャリアを土台にしながら、組織/経営コンサルティング領域を専門とし、主にTech系メガ/ミドルベンチャーの構造設計・制度開発を手がける。特に人数規模500名超えのフェーズにおける、経営執行分離・マトリックス型の構造設計と、それらを駆動させるHR制度運用を用いた、経営アジリティを高める方法論が得意。

現代のマネージャーが向き合う「4つの命題」

マネージャーのみなさんは、日々さまざまな課題に向き合っています。人材育成に関するものから、チームを目標達成に導く方法、あるいはメンバーのキャリアまで。

それらの課題は4つの命題に分類でき、それら同士の間に引き起こす矛盾が、マネジメントの難しさにつながっているのではないか。そう考え、マネージャーが向き合っている課題を、「現在──未来」と「事業──人材」の2軸で整理すると、以下のようなマトリクス図になります。

左上の「事業ビジョン」とは、事業の未来についての命題です。昨今のマネジメント論では「どんな未来をつくっていくのか」を明示しながら経営していくことが重要とされていますが、このことは「チーム」の運営においても変わりません。マネージャーは健全なチーム運営のため、半年後、1年後に実現すべき未来とその意義をしっかりと示し、メンバーからのコンセンサスを得ながら物事を進めていかなくてはなりません。

そして「事業ビジョン」を達成するために現時点で考慮すべき対象が、左下の「目標達成状況」という命題です。目指す未来を実現するために、各部門がどのような定量目標を設定し、その数値をいつまでにどれだけ向上、あるいは抑制すべきなのか。マネージャーは自らの管掌範囲と関係するさまざまな数値と事業の現状を踏まえて、目標を設計し、その達成状況をモニタリングしながら、メンバーをマネジメントする必要があります。

ここまでが「左側」、つまりは事業に関するマネジメントの命題です。他方、マネジメントにおけるマインドコストの多くを占めているのが「右側」、すなわち人材の問題です。

右下の「人材問題×今の状態」の領域における命題は「人員リソース」です。メンバーたちはやりがいを持って現在の業務に取り組めているか。それぞれのポテンシャルに対して適切な仕事を割り当てられているか。こうした課題に、マネージャーは日々向き合っています。また、それらを解決するために、1on1を実施したり、その中でコーチングをしたりしているマネージャーも少なくないと思います。あるいは、現在における適切な人的リソースを確保するための「採用」も、この領域における課題の一つでしょう。ただ、関連書籍も多く見られるようになってきているように、昨今ではこの「人員リソース」にまつわる知見もだんだんと増えてきていると思います。

一方、右上の「個人キャリア」に伴走するためのノウハウや情報は、まだまだ乏しいと言わざるを得ません。社会の不確実性が高まっている中で、これまでに存在していた「一般的なキャリアモデル」は消滅しつつあります。その中で、マネージャーに求められるのは、メンバーそれぞれのキャリアやライフプランに向き合い、そのメンバーにとっての理想のキャリアを共に考え、組み立てていくこと。仕事や暮らしを含めた「人生」の支援も、マネージャーの務めの一つなのです。

求められる、マネジメントの体系的な「学習知」

この「4つの命題」を踏まえ、現代におけるマネジメントの責務を突き詰めて考えると、「事業と人の理想の未来を描き、その未来を実現するために、現在の課題と向き合う」ということになると思います。

注意しなければならないのは「事業のために、人がいる」わけではないこと。もちろん、事業目線で言えば、人の成長や自己実現は事業成長のための手段の一つです。しかし、その逆も然りで、人目線で考えれば事業を伸ばすことは、人が抱える課題や未来の理想像を実現するための手段だとも言えます。

そのため、4象限のうちどれが最優先ということはなく、すべてを最優先事項と捉えて向き合い続けなければなりません。事業の未来を解像度高く理解するためには、マーケット内外のマクロなトレンドを学ぶ必要があります。他方で、事業が現在抱えている課題を解決するためには、担当する領域に関する業務知識は当然のこと、ピープルマネジメントについての学習も欠かせません。そして、キャリア支援に関する知識も求められます。

後に詳しく述べますが、かつては経験から生じる「感覚知」でマネジメントできたのですが、事業環境が大きく変化したことによって、それは難しくなりつつあります。そして、現在代わって求められ始めているのは、広範な範囲に及ぶ「学習知」です。このことが現代のマネジメントの難易度を上げているのだと考えています。

「もぐら叩きマネジメント」から脱し、命題を両立して考える

しかし実際には、4象限それぞれに関する「知」は、各象限に閉じてしまっているケースが少なくありません。たとえば、「目標達成状況」を改善するための知識を獲得したからといって、「個人キャリア」に伴走するためのスキルが向上するわけではなく、逆もまた然りです。

だからこそ、マネジメントは「もぐら叩き」になってしまいがちです。ある象限に関する問題を解決したと思ったら、また別の象限についての問題が発生し、それにリアクションする形で対応せざるを得ません。出てくるもぐらが多すぎて、疲弊してしまうこともあります。

重要なのは、「複数の命題にまつわる課題を、同時に解決する仕組みやカルチャーはどんなものだろう」と常に考えながら、マネジメントに向き合うことです。そのためには、事業と人、あるいは現在と未来双方の課題を解像度高く捉え、それらをつなぎ合わせながら解決する戦略を練らなければなりません。

しかし、しばしば「事業と人」、「現在と未来」の間には矛盾が生じます。
たとえば、短期的な目標を達成するために、新しい業務管理方法を導入したとしましょう。その結果、「目標達成状況」にまつわる問題は解決できたけれど、その管理方法を運用するためにメンバーがやりがいを感じられない仕事が増えてしまい、エンゲージメントの低下といった「人員リソース」に関する問題が生じてしまった……そんな経験をしたことがある人は少なくないと思います。

あるいは、事業の未来と現在の姿も分断されがちです。目標達成のために頑張っているけれど、達成すること自体がどんな未来につながっているのかわからなくなってしまっている──そのような組織は少なくありません。逆に、中長期的なビジョンをみんなでわいわい考えるのは楽しいけれど、現在の姿とかけ離れているために現実感が持てず、日常に帰って来た瞬間に描いた未来を忘れてしまう、ということもあるでしょう。

マネジメントの4つの命題の間には、それぞれ矛盾が存在します。それらの矛盾と向き合い、解消していくことによって「もぐら叩きマネジメント」を脱却する。これこそが、現代のマネジメントの肝です。すなわち、一つひとつの命題に関する学びを深めながら、学びを溶け合わせて、「学習知」だけではなく、「統合知」の獲得に至ることこそが、現代組織のマネージャーに求められているのだと思います。

かつては「飲みニケーション」や「愛社精神」が、矛盾の発生を防いでいた?

「マネジメントのパラダイムシフト」が起こる前の国内企業は、こうした命題をどのように乗り越えていたのでしょうか。

かつて、日本においては多くの企業が同じフレームを使ってマネジメントを行い、それが社会全体でうまく機能していました。

先程挙げたマトリクス図に当てはめて説明すると、「事業ビジョン」の領域においては、ほとんどのプレイヤーのゴールは「市場の占有」でした。まだまだ多くの産業に白地が残されていた時代だったので、自社が占有できそうな市場を選択し、的確に資源の選択と集中を繰り返すことでマーケットリーダーになることが重要視されていました。だからこそ、多くの企業のミッションやビジョンには「どの市場を」「どのようなビジネスモデルで」攻めていくのかが明確に示されていました。

ここまでゴールが明確であれば、「目標達成状況」の指針も難しくはありません。特定の市場において、他社に先んじてマーケットリーダーとなるには、どういった指標をどれくらい上げればいいのか考え、各部署の目標に落とし込む。メンバーたちには、その目標数値を達成するための行動目標を与え、アクションしてもらう。そのような単純な行動で成果が上がる時代であり、だからこそ、多くの企業が「行動量」のマネジメントを重視していました。

こうした全体方針のわかりやすさは採用にも影響し、確保すべき人材像を定めることも今より容易に行うことができました。定められたオペレーションにしっかりと適応できる人材を育てればいいのです。だからこそ、「人員リソース」の領域における課題の最適な解決法は、シンプルに「新卒大量採用」になります。「市場の占有」という事業の未来を実現するために、その時点における明確な「行動指令目標」を定め、決められたアクションを遂行できる人材を「新卒大量採用」によって確保しようとしていたわけです。

そして、集めた人材に「個人ビジョン」における命題の解として、画一的な「総合職」というキャリアビジョンが提示できていたのも、前時代のマネジメントの特徴です。かつては多くの人々が、所属している会社の規模を問わず、暗黙のうちに「いいキャリアとは、総合職として幅広い業務を担当することだ」と信じ、会社から与えられるさまざまなポストを経験していました。

こうした時代の中では、命題間に生じる矛盾のマネジメントについても、基本的にはどこの企業も同じような方法がとられていました。一つ例を挙げるとすれば、「飲みニケーション」です。行動指令目標を、新卒採用で確保した人材に「やりがいを持って」達成し続けてもらうためには、メンバーたちを「仲間化」し、一丸となって「みんなで頑張ろう」という動機を形成する必要がありました。だからこそ、飲み会をしたり、運動会を企画したりしていたわけです。

また、「事業ビジョン」と「目標達成状況」、つまりは事業の「未来」と「現在」の間で生じる矛盾は、愛社精神を醸成することでクリアしていました。市場の占有という未来を実現するためには、とにかく行動量が大事だった。どれだけ苦しかろうが、大変だろうが、行動し続けてもらうためには「愛する会社のために」と思ってもらう必要があったのです。

加えて、「人員リソース」と「個人キャリア」間の矛盾を解消していたのが、年功序列の賃金体系です。終身雇用を前提とし、「年齢が上がればポジションも上がって、給与も上昇する」というシンプルなキャリアモデルを提示することによって、現在と将来の間で個人が人材が抱える矛盾の発生を抑えていたわけです。

最後に「個人キャリア」と「事業ビジョン」の間で生じる矛盾は、「仕事が人を創る」という価値観によってマネジメントしていたのではないかと推測しています。事業が伸びれば伸びるほど、社内にはさまざまなポジションが生まれ、総合職としていろいろな経験ができる人が増える。つまり、市場の占有を進め、仕事が増えれば、いいキャリアを積める人も増える。「だから、みんなで頑張っていこうぜ」という考え方です。

かつての日本企業は、こういった非常にシンプルなマネジメントモデルによって動いていました。このモデルの中心にあるのは、企業の成長を最大の目的とする「企業中心の物語」です。そして、このモデルはとてもシンプルであるがゆえに、もともと地頭が良い方であれば、マネジメントに関する専門的な書籍などを読まずとも、感覚的に運用することができます。

確かにツッコミどころは多いですし、もやもやするところはたくさんあります。しかし、企業の成長を最優先事項とする企業中心の物語の中では、誰でも比較的簡単に運用できるという意味において、とても大きな役割を果たしていたと思います。実際に、このモデルを用いることで、多くの企業が大きな成果を残してきました。

そして、未解読の「4つの矛盾」が残った

しかし、バブル崩壊などによって、このパラダイムも崩れてしまいました。しばらくの間は、多くの企業がそれに気づきながらも「まだなんとかなる」と、このパラダイムを引きずっていたかと思いますが、「もうさすがに限界だ」となりつつあるのが、近年の流れだと思います。なぜ多くの企業が旧パラダイムの「限界」を悟ったのかいうと、一言で言えば社会的な状況が大きく変わってしまったためです。

たとえば、さまざまなマーケットが成熟し、飽和状態にある中では、「市場を占有すること」と「継続的に事業を成長させること」は、もはや同義とは言えなくなっています。環境が目まぐるしく変化し続けるマーケットの中で「5年後にはこれくらいのシェアを獲得し、10年後にはこれくらいを目指そう」と計画することが、かなり困難になりました。いま求められているのは、単一の事業を伸ばすための「選択と集中」だけではなく、市場の変化を捉えながら新規事業を生み出し「多角化」し続けることです。

「『行動指令目標』を達成していれば『目標達成状況』の課題を解決できる」──これも今では必ずしもそうとは言い切れません。たとえば、新型コロナウイルス感染症の流行によって働き方は大きく変わりましたが、そのときにメンバーに求められたのは、「定められた行動を取ること」ではなく、個人やチーム単位で考え「自律的に行動すること」だったはずです。コロナ禍による変化はあくまでも一例で、就業環境はさまざまな要因によって多様化し続けています。そうした中では、画一的な行動指針ではなく、チームの自律化を実現する仕組みづくりがより必要となります。

また、個人の価値観が多様化したことによって、人材面におけるマネージャーに与えられる命題も大きく変化しています。終身雇用という雇用のあり方は過去のものとなり、かつてのように「総合職として、この会社で活躍し続けること」だけが理想のキャリアではなくなっています。理想のキャリアや、どんな業務にやりがいを感じるかも、メンバーによって全く異なるわけです。これまでのように飲みニケーションを図り、「仲間化」することでモチベーションを提供するだけのやり方は通じなくなっています。

つまり、主要なマネジメントのモデルの根底にある思想が、「企業中心の物語」から、「人中心の物語」に変わっているということです。もちろん、事業成長が企業の持続可能性に繋がり、それらが重要であることに変わりはありませんが、そのためのマネジメントに対する基本的な考え方が、「企業の成長に人を従属させる」ものではなく、「企業」と「人」の双方を中心に据えた物語として捉えるものになりつつあるのです。人的資本経営の時代になった、と言い換えてもよいかもしれません。

「事業の多角化」「チームの自律化」「キャリアの多様化」「価値観の多様化」といった時代の変化によってもたらされた個々の命題の存在は多くの人が認知していますし、書籍などでもよく取り上げられています。しかし、「それぞれの命題が互いにどのように影響しあっているのか」や、「それぞれの間に生じる矛盾とどう向き合えばよいのか」といった点に目を向けている方は、現状それほど多くはないのではないでしょうか。その部分に対するナレッジが社会全体で不足していることこそが、現代のマネジメントが困難化している根本的な理由なのかもしれません。

これらの矛盾にマネージャーとしてどのように対処すればよいのでしょうか。
下記の記事ではそのヒントとなる知見をまとめています。ぜひ合わせてご覧ください。


本記事は、現代組織におけるマネジメントをアップデートしながら、これまで不足していたミドルマネジメント向けの知識を体系化しようと試みたイベント「現代組織におけるマネジメントの役割を捉え直す:マネージャーが向き合う4つの命題が生む矛盾とは?」の一部を記事化したものです。90分におよぶイベントの模様は、下記のアーカイブ動画より全編ご視聴いただけます。

また、先日開催したイベントでは、現場マネージャーを務める「課長」の観点から、これらの矛盾をより具体的に捉え、その対処法を整理したイベントも開催しました。関心のある方はこちらもご視聴ください。

さらに7/23(土)10時からは、その続編となるイベント『「MBAのテキスト」を書き換える:今、経営者が学ぶべきマネジメントの知とは?』を開催。こちらは経営層に焦点を当て、現代の組織をリードしていくために必要な知や心構えを解説しています。関心のある方はぜひご参加ください(終了後はアーカイブ動画をご覧いただけます)。

Text by Ryotaro Washio
Edit by Masaki Koike

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